■家全体を考えたからこそ生み出せるトイレ・洗面・ユーティリティスペース
現在や将来の介護にむけて、特に気がかりなのが、洗面・トイレスペース。
将来体が不自由になったときに向けて、どれぐらいの広さを確保すべきなのか?
廊下や出入り口の幅はいったいどれぐらいが適切なのか?
そもそも今スペースを多くとる必要があるのかな、その時になったらでいいのでは?…などなど。
結論を申し上げれば、「私と私たちの家ではこうしました」を住まい手と関係者が共有して生み出すことが大切だと思うのです。
「将来VS今」やコストの掛けどころ、
洗面・トイレスペースの優先順位は人によって当然違いますし、
現在の住環境からくる制約もその家それぞれ。
もちろん障がいや疾患のみならず、体格、日常行動、癖までも含めた使い勝手とくれば、
正解は一つではありません。
では、洗面・トイレスペースについて、
私の場合の「私と私たちの家ではこうしました」をご紹介します。
①リフォーム前の建物・家全体を考える。
②つやさんとお母さん・将来の想定
③洗面トイレスペース→ユーティリティスペースへ
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①リフォーム前の建物・家全体を考える。
リフォーム前、1階のトイレ、洗面、お風呂の配置は不思議な三角形を描いていました。<図1:改修前1階>
LD(リビングダイニング)を中心に、北にトイレ、東に洗面台、南に脱衣所(身づくろいをする姿見)とお風呂という三角形です。つやさんとお母さんは朝に晩に、この三角形を巡っていました。これに加えて水回りの更新時期が迫っていたのです。
②つやさんとお母さん・将来の想定
つやさんはダウン症です。ダウン症にもいろいろな人がいますが、つやさんの場合はトイレやお風呂といった身の回りのことがひとりではできません。
お母さんは毎日、つやさんの身の回りの手助けをしてきました。それこそ介護という言葉ができる前から。
ひとりではできないので、二人で三角形をぐるぐる、ぐるぐる。
だんだん足腰が気になる年になり、そばにいる家族としては将来の車いすも頭をよぎります。
③洗面トイレスペース→ユーティリティスペースへ
さていよいよリフォームをする段になって、我が家の1階にはもう一つ問題がありました。
1階から2階への階段は道路や玄関からもっとも離れた位置にありました。
狭い家の中に玄関から階段への通過動線が必要になります。どんな平面計画にしろ、です。
「居間と寝室を最大にとり、かつ洗面トイレも現在と将来を見越してできるだけ余裕を持たせたい。」
このテーマを「私と私たちの家では」こうしました。<図2:改修後1階>
1)変えられない階段の入り口に洗面、トイレ、お風呂の入り口をくっつける。
2)階段の下に洗面、お風呂を押し込む
3)通過動線はあえて居間を横切る
4)1)~3)によって居室も洗面・トイレもできるだけ広くする。
ここで一つの工夫が生まれました。「便器の脇を通る動線」です。
トイレという室も、またその中の便器の配置そのものも一般的には「行き止まり」な場所にあります。
トイレと洗面室が一体になった空間が日本の住宅でもまれに見られるようになりましたが、その場合でも便器の前を横切ってお風呂に続くながれが一般的です。
私と私たちの家の場合、便器の左わきを通って洗面化粧台とその先のお風呂へ至る動線としました。
このことによって、便器の左と前に方向からゆったりトイレ介助ができます。
その後左前の洗面化粧台でしっかり手を洗い、朝なら歯を磨き髪をとくといった具合に一連の流れがスムースです。
誰しも朝のトイレや身支度は決まった手順、ルーティンが大切です。障がいを持った人ならなおのことです。
つやさんがトイレをしている間にその様子を見ながら洗面台を拭いたり、洗濯機を回したりできる。なんということもないことですが、大事です。
また広すぎてはトイレは落ち着きませんし、狭すぎては将来の車いすの使用ができなくなります。
便器正面からのアプローチが教科書的には正解であることは論を待ちませんが、
この便器の脇を通る動線は、面積の限られた家で、障がいや体の動きが許すのなら、ぜひご一考いただきたいものです。
このような無駄なく動作を支援する空間が、本来の意味でのユーティリティスペース、と考えています。
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